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「私、オルガ・ヘプナロヴァー」

「私、オルガ・ヘプナロヴァー」2016年 捷・波・斯・仏 監督:トマーシュ・バインレプ ペトル・カズダ
Ja, Olga Hepnarova

経済的に恵まれた家庭に育った22歳のオルガ・ヘプナロヴァーは、1973年7月10日、チェコの首都・プラハの中心地で路面電車を待つ群衆にトラックで突っ込み、8人が死亡、12人が負傷する「事故」を起こす。犯行前、オルガは自身の行為は多くの人々から受けた虐待に対する復讐であり、社会に罰を与えたとの犯行声明文を新聞社に送っていた。両親の無関心と虐待、社会からの疎外やいじめによって心に傷を負った彼女は、自らを「性的障害者」と呼んだ。大量殺人という形で社会への復讐を果たしたオルガは、逮捕後もまったく反省の色を見せることはなかった。

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秋葉原無差別殺人を思わせる事件が70年代チェコで起きていて犯人が女性で、しかもチェコの最後の死刑囚だと言うのだから、もうそれだけで十分に食いついてしまうわけだが、実話を元にしたドラマという興味以上に映像作品としての魅力に恐れ入りました。
それは多分に主演ミハルナ・オルシャンの魅力、存在感による所が多いわけだが音楽を排したモノクロ映像、執拗な長回し、時空間の捉え方にゾクゾクする部分が多々。
決して状況説明に親切でない演出も効果的で好ましい。

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常に不器用そうに指先に抓まれている煙草。華奢な身体に白シャツ細いタイの運転手姿のオルガ。運転手になる前に華奢なオルガ一人働き怠惰な大男たちの間に並んで給料受給を待つショットなんかかなり刺激的である。
オルガが同性愛者という設定(実際そうだったんだろう)がまた観る者を飽きさせない。クラブで女の子とセクシーに踊るシーンでは本作で唯一サウンドが鳴るシーンでそのサイケなロックも印象的。そこで気付いた、ミハルナ・オルシャンの既視感的魅力。髪型が同一であるというだけでなく、あんた、パルプ・フィクションのユマやんけw

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雨の中、小屋の外に下着干して小屋で自慰にふけるオルガ、何やってんだろと思ったが干してんじゃなく洗ってんのねと合点した途端その孤独と貧困にキュンとなった。結果としてその思考や行為には共感できなくてもこういうのには泣く。

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期待膨らむ(期待すんなっ)犯行シーン。トラックの高い運転席からの視点のみで捉えられる怖さ。オルガが運転席から降ろされ連行される際に背景として配置される大惨事光景。

法廷「わたしが易易と自殺するとでも思った?」と言い捨てる排除されてきた者の歪んだ凄み。
死刑を望むオルガ。秋葉原でもそうだけどこんな愚な判決は無い。死刑を望むが嘘でない限り犯罪者の望みを適えてどうすると言うのだ。私はかなり死刑廃止論に偏る思考の持ち主だが、それは死生観によるんだろうな。極悪犯には半殺しの苦しみを与える方が良い。執行の晩に料亭で笑顔のVサインしてる連中の気が知れない。
だからラストで見せるオルガの取り乱しになんだか救いのような物を感じた。

家族関係、社会的弱者、虐め、孤独、性的マイノリティー、死刑制度。現代に通ずるテーマを多く持ちながらもそれらを題材に映像作品の魅力を生み出した監督。見ている間はテーマについて思考の入り込む余地さえ無かった。傑作。

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渋谷 シアターイメージフォーラム
2023年5月

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