「再発見 フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅」
「ルナ・パパ」1999年 独・墺・日 監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
Luna Papa
美しい湖畔の村。女優を夢見る17歳の少女マムラカットは、戦争の後遺症を抱える兄や厳格な父とともに暮らしている。ある満月の夜、マムラカットは暗闇の中から声をかけてきた見知らぬ男に誘惑されて彼の子を身ごもるが、男はこつ然と姿を消してしまう。古い慣習にとらわれた村で冷たい仕打ちを受ける中、父や兄と一緒に男を捜す旅に出るマムラカットだったが……。
ユーロスペースのロビーには過去上映された作品のチラシがずらっと展示されている。眺めているとまだ見ぬ作品の中でひと際引きつけられてしまうものがあり、それがこの「ルナ・パパ」だった。白いワンピースの少女が自動車の屋根の上で踊っている姿が月明かりに照らされている。
そのユーロスペースで念願かなって鑑賞は良かった。
この作品の舞台となる中央アジアにおいてもシングル・マザーの道を選ぶ事は苦難の道であり、内容的にはかなり重たいものになっているのだけれど、中央アジアの色彩豊かな景色とカメラワークが虚構な世界観を醸し、映画として良質なファンタジーに落としこんでいるのでかなり好ましい作品だった。はっきり言って好き。
マムラカットを演じるチュルパン・ハマートバのルックスが若き日の宮沢りえっぽい可愛さである事も大きい。
17歳の娘が楽しみにしていた演劇を見損なった月明かりの晩、見知らぬ男の声に催眠術にかかったかのように森へ消える。ここで顔も見せない男に暴行され身籠ってしまう。中絶手術に行ったら医者がギャングの撃った流れ玉に当たって死亡してしまったため出産を決意。
森の暗影での暴行処女喪失シーンが印象的すぎる。
娘を愛する厳しい父親と、戦争の後遺症で頭がいかれてしまった兄ナスレディンとで父親探しの旅は少女が糞なタジキスタンから這い出そうとする旅でもある。
低空飛行するプロペラ機。馬の群れ、牛の吊り上げ。ナスレディンの奇行動。痴れっぷりはラテンアメリカにだって負けない。
結末のファンタジー・イリュージョンな展開には悶絶するしかなかった。
機会があればもう一度見たい作品。
渋谷ユーロスペース
2023年6月