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Channel: JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)
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「気違い部落」

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「渋谷実のおかしな世界 The Bizarre Warld of Minoru Shibuya」

「気違い部落」1957年 松竹 監督:渋谷実 16mm

東京近郊の山間部のわずか14世帯の部落。本能丸出しの浅ましさ。馬鹿げた集落の掟ゆえ、周囲から「気違い部落」と呼ばれる集落で起こった大騒動を描く。日本=ムラ社会を徹底的にカリカチュアライズした渋谷実の手腕は見事!ソフト化・放送ともに困難なため劇場にてご覧ください。

そのタイトルから思い浮かべていた内容とはちょっと違った、これは秀逸な社会風刺ドラマでした。
部落の人々、名バイプレイヤーの三井弘次、藤原鎌足、信欣三のキャラが楽しい。
加えて伴淳三郎の駐在がイイ。これが部落から一歩引いた重要な役割なんですけど。
部落の中にあって掃き溜めに鶴状態の水野久美の美しさは若い娘なので良いとして、母親の淡島千景の美しさは部落には不釣り合いであり、名優淡島千景の演技を持ってしてもリアルに欠ける。役作りに徹しなかったのか、周囲が徹しさせなかったのか、綺麗すぎだよ。

コメディタッチの前半とシリアスドラマな後半の風味の違いが渋谷実ならではの事なんでしょうか。
いきなり解説者と称する森繁久弥が出てきて狂言回しを勤める設定は面白いが流石に後半では影を潜め、中途半端にも思える。でも観客の当方は一気にドラマの中に引き入れられていたので違和感に気付きはしなかったけれど。

事実上の村八分(村八分ではなく、親方が部落を抜けて皆がそれに追随しただけ)状態の鉄次一家。
娘が肺病にかかると、妙薬、ほととぎすの黒焼きを高値で売りにくる藤原鎌足。
娘の生死に医者を呼びに行くように懇願され二人乗りで医者を連れてくる三井弘次、かみさん連中に詰られてると駐在が「お前はいいことをしたんだぞ」と慰められる。
雨の中、一家だけの寂しい弔いに見かねて傘を差し出すかみさん連中や、長いものに巻かれろに居心地悪く憂さ晴らしに賭博を始める男たち。しかし、意地の張り合いもあって和解には通じない。
この辺りの描写がとても巧み。

「日本のどこに行っても同じ」という強烈な風刺にみえるやりきれない馬鹿馬鹿しさは、そのまま差別用語という概念のアホらしさに繋がって思えた。
現代において人がスクリーンから発せられる「気違い」という言葉に何やら後ろめたさを感じる不条理さ。差別用語と設定された時点から始まるわけで、当時はどうって事のない普通の言葉だったじゃないか。本作も別段差別的な要素が見られるわけでもなく、むしろ社会学教育的にも多くの人に観てもらうべき映画なのに。言葉によってソフト化不可能だなんて・・・

内容から「気違い」という言葉に拘る必要はなく、工夫すればタイトルを変えて、音声にも手を加えれば放送可能になりそうなもんだが、そんな事をするぐらいならという思いが、鉄二の「部落を脱け出す事こそ泣き寝入り、この部落で生まれ育ったからにはどんな事があってもここで生き抜いてやる」という強い思いに重なった。

思いがけずとてもいい映画でした。

シネマヴェーラ渋谷

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