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Channel: JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)
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「奇跡の海」

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「トーキョー ノーザンライツ フェスティバル 2011」

「奇跡の海」1996年 デンマーク 監督:ラース・フォン・トリアー
原題:Breaking the Waves

プロテスタント信仰が強いスコットランドの村に住む女性ベスは、油田基地で働くよそ者のヤンと愛し合い結婚する。だが、ある日起きた大事故で、ヤンは半身不随になってしまう。朦朧とする意識の中でヤンはベスに、他の男たちと寝るよう強要し、信仰に篤いベスもまた、夫を深く愛するがゆえに、見知らぬ男たちと関係を持ち始めるのだったが…。

ラース・フォン・トリアーの作品はこれが初めてです。
無神論者の日本人、この信仰の物語にどっぷりと浸かる2時間40分。
スコットランドの殺風景な中に美しさのある景色と、精神を病んだことのある女性ベスを演じたエミール・ワトソンの演技にぐいぐい引き込まれてしまいました。

半身不随で妻を喜ばせる事ができなくなった夫が他の男と寝ることを強要し、その情事の話を聞く事のみに生きる力を得るという物語。信仰という視点が無くてもポルノドラマとしては成立しそうな内容。そこに信仰を持ってきた事によって、物語がより重々しさを増していく・・・。

そこに細かい章立ての構成、各章冒頭のCG処理された美しい風景と60年代、70年代の馴染み深いロック・ミュージックによるインターバル。
これが、物語の重々しさから、ふと息継ぎをさせてもらうような効果がある。
なぜ、監督が60〜70年代のロックを選んだのか、知る由も無いが、私の世代にとっては誠に救いになったのは事実。

ところで、昨年見た「愛のむきだし」で父親のために罪を重ねるユウの姿とベスの行為が重なる部分がありますね。この作家の影響があるのでしょうか。
純粋なる者の信仰とはそういうものなのか。怖ろしさの中に尊いものを感じたり、複雑な気持ちにさせられます。

ひとつの愛の物語としてベスの愛、ヤンの愛に不覚にも感動していると・・・
治癒するはずもなかった、ヤンが回復するという陳腐な奇跡的展開に落胆させておいて、実は本当の意味での奇跡がエンディングに鳴り響く、この巧みさ。
確かにちゃんと伏線も踏んでいましたし・・・。
ラブ・ストーリーの中に宗教心や神という視点を入れてこそ、生きるラストに感服。
鑑賞後はそれまでの重々しさから開放され爽快感すら味わう事に。
べスとヤンがあの鐘の音で報われたわけではないと思うのですが、何かそのようなものを超越した存在を意識することができます。

エミリー・ワトソンは年齢不詳気味の小じわがとても可愛らしく、新婚から処女喪失、愛欲に溺れていく過程。精神の不安定さを熱演。
彼女のための作品とも言える素晴らしい演技でした。

その影で助演である義姉ドドのカトリン・カートリッジの好演も光ります。
夫を亡くしているドドはベスに対して常識的に振る舞いますが、徐々に心理面に変化が見られます。ベスの死に向かい合った号泣シーンが印象的。
そして、最後には、女の発言を許されない教会に対して発言に及ぶんですね。

やはり、この映画には章立てのインターバルが重要に感じます。
60年代から70年代のロック。
懐かしい気持ちで聞き取れたのは・・・

All the Way From Memphis/Mott the Hoople 第1章 ベスの結婚
ジェスロタルの曲(題名は思い出せず、調査の結果「Cross Eyed Mary」)第3章 独りの生活
青い影 Writer Shade of Pale/Procul Harum 第4章 ヤンの病気
Goodbye Yellow Bric Road/Elton John 第6章 信仰
Child in Time/Deep Purple 第7章 ベスの犠牲
デビット・ボウイの歌(題名は思い出せず、調査の結果「火星の生活 Life on Mars」)エピローグ 葬儀

不明だった曲も調査の結果判明いたしました。
In a Broken dream/Python Lee Jackson,Rod Stewart 第2章 ヤンとの生活
Suzanne/Leonard Cohen 第5章 疑惑

その他、劇中で使用
Virginia Plain/Roxy Music(こういう使われ方が似合う曲です)※
Hot Love/T・Rex・・・etc...

ラース・フォン・トリアーの新作が日本でも公開。「アンチ・クライスト」
また、宗教的内容のようですが、私はエログロ目当てで見る予定。それなりの覚悟をして・・・

O・アサイヤス「冷たい水」でも似たような使い方されていましたね。

渋谷 ユーロスペース

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