ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021で観る事のできた短編いくつか
「ある母」2020年 監督:板橋知也 10分
病室、ある母・優香はベッドの上の幼児をあやしている。 優香はベッドの上の10歳の女の子を世話している。彼女は手に負えず、苦悩を重ねる日々を送る優香。ついには殺意が湧いてくる。しかし彼女が作った折り紙を捨てようとした夫に激怒し、優香は女の子への愛情を 再確認する。優香は18歳の少女を世話しているが…
介護疲れの問題。母になっていく意識の変遷を時間を逆回しにすることで印象的に映像表現。短いけど良い作品と思った。監督が20代でこれを作るのは凄い。優しいご亭主のどこか感じる介護に対する温度差がリアル。介護の対象が何らかの障害を持った少女かと思わせ彼女の成長とともに、介護は認知症の母である事が明らかになる。時間の逆行をうまく使っているのだが、母親役の表情が少女の成長とともに疲労の色が濃く老けていくのは変では?と思ったが、最後までみるとそれで良いのだ、とも思えた。梨に血がにじむショットが印象的。
「全身犯罪者」監督:松野友喜人 21分
残忍な連続殺人事件が発生する。捜査に行き詰まった事件の担当刑事は、中華料理屋の店主が裏稼業として営むタイムマシン施設を利用し、時空を超え日本の著名な凶悪犯罪者たちに接触。犯人逮捕に協力を求める。三億円事件の実行犯、新興宗教団体の教祖、人喰い殺人鬼、昭和の大量殺人鬼、大量毒殺犯ら犯罪者5人は、刑事に対して事件への見解と捜査への協力条件を提示する。事件解決の為刑事は犯罪者たちを現代に引き連れる。会議室に一堂に会し、会議を行う犯罪者一同。そんな中、女子高生が事件の犯人から襲撃を受ける。刑事と犯罪者たちは現行犯逮捕に向かい、犯人と対峙する。
あらすじを見て、これは「地獄八景」とか「死ぬなら今」の犯罪者版かなと思ったら冒頭にらくだが出てきてウケた。劇中の全登場人物11人を監督自身が熱演。更に、脚本・演出・編集・美術・CG/VFX・小道具・エンディングテーマまで。ラスト犯人のなぞなぞ問答をやりたかったのかな。
「単衣あわせ」監督:島村宗人 16分
合理的思考で、いつも白衣姿の理系男子大学生・清瀬湊(20)は、公園で微生物の採取をしていた。その試験管の視線の先には、複雑的思考で、いつも着物姿の小説家志望・浦山弥生(23)がボートに乗っていた。初めての恋に戸惑う2人。湊と弥生は、お互い知人に「恋人のつくり方」を聞くのだが…
可愛いロマンチック・ラブコメ。着物姿に欲情する男の子と白衣姿に欲情する女の子。性交時間に拘ったナレーションが風変わりな主人公に合ってる。主演の二人(岬康星、松浦稀)のキャスティングも好感。不器用だけど、一目惚れ相思相愛って究極かも。
「4と6」監督:池田智 15分
家庭の事情で大阪から神奈川の港町・真鶴に引っ越してきた少女・リラ。彼女は、人生に絶望してすべてを捧げてきたバイオリンを海に投げ捨てる。偶然、それを拾ったのは、いつも港で弦が4本しかないボロボロのギターをかき鳴らしている夢見がちな少年・純平だった。ネットで転校生のリラがバイオリンを演奏する動画を見つけた純平は、「弦楽器は同じ」という理由でリラにギターの指導を頼み込む。いつも明るく未来を語る純平だったが、いずれ家業の干物屋を継がなければならないと心のどこかに諦めを抱えていた。それでも愚直なまでに音楽を渇望する純平。その姿にリラは、胸の奥で音楽への情熱がうずくのを感じ、純平に共感するとともに、捨てたバイオリンへの想いを募らせていく…。
からバカでまっ直ぐな純平のポジティブ・キャラ。ギターに憧れるが弦は4本、チューニングもされていない。楽器が弾けると楽しいのだけれど、多くは挫折する。まず音感が無いとチューニングでへこたれる。でも純平のキャラなら乗り越えられそうだ。リラとともに音楽への情熱ならぬ憧憬が沸き起こる。製作はすべて純平のギター同様、映画と無縁である素人スタッフで作られている。純平にキング・カズの息子という三浦獠太。リラの岩品セリンも、音楽家を目指す17歳。今後演技を磨けば輝きそうな初の女優挑戦。青春だなぁ。
「Rendezvous」監督:宇都宮弘毅 5分
封鎖され、通りに人の消えた近未来の東京。かつては「待ち合わせのメッカ」――だった場所。そこで、若い女が男を待っている。しかし彼女の前に現れたのは、ガスマスクの怪物だった――
モノクロ・サイレント・掌編の近未来SF。初めてパンデミックを経験した2020年ならではの着想。1年経つと良くも悪くも近未来像は変わってしまう。主演女優の葵うたのには何かがある。
「スティグマ」監督:石川真吾 24分
正体不明の巨大な生物・通称「アースロボダ」が東京上空に現れ、世界は一変した。「アースロボダ」がばらまくウイルスによって浮き出るとされる痣は「スティグマ」と呼ばれ、それを持つ人間は迫害の対象になっている。元バドミントン選手の小笠原杏は左手にスティグマが浮き出ており、「スティグマ狩り」をする自警団・出会い警察から隠れるように過ごしている。食料も底をついたある日、都の役人、田井中穣が訪ねてくる。田井中は杏に唾液を提供するように言うのだが、果たしてその真意とは―?
一連のコロナ禍のなかで生まれたSFでキーワードが散見されるが面白いかと言うと・・・。
「THE BELL」監督:恵水流生 16分
ホテルマンショウタが出会う不思議な人々と奇妙な出来事のコメディ風ドラマ。憧れのホテルマンにやっとなれたショウタだが、彼にはこのホテルの前で母親に置き去りにされた過去があった。彼は不思議な老人に導かれ過去の自分と出会う。
16分の尺の中10編詰め込んだショートショート集でテンポ良く密度濃い。ホテルマンが客にツッコミを入れる形。シャインイングの双子と滑舌の悪い先輩が良かった。最終話は泣かせる展開。ぷくぷく大作戦。
「童謡」監督:マイケル・カム 11分
シンガポール人の映画監督が、母方と父方、2人の祖母との思い出からインスピレーションを得て、片や英国、片や日本という異なる帝国主義の支配下で過ごした彼女たちの子供時代を想像する。
祖母たちの幼少時の体験を通じて現代でも存在し続ける排他・疎外にも思いを巡らす、在りし日のツーショットで終わるのも良い。
「この監督ヤバスギ!」監督:オム・ハヌル
インディペンデント映画界で注目を集めるオム・ハヌル監督。新作の「話せない少年」の撮影現場でオム・ハヌルは傍若無人で自分勝手に振る舞い、そこに厄介な女優も加わってスタッフたちはしだいに疲れ果てていく。そして、予定になかったロケの延長が決まってスタッフたちはついに爆発。自分たちだけの新しい映画を作ることにしたが…
映画の現場でもパワハラとか酷い事がかなりあるんだろうけど、この監督がさほどヤバスギ!ってほどでもないのでカタルシスも無し。
「スナック来夢来人」監督:田邊馨 19分
「スナック来夢来人」は過去に夢を置いてきぼりにしてきた彷徨い人が集まるお店。歌を唄い、酒を飲み交わし、声高々に笑い、まるで嫌な過去を忘れ去ろうとする様に毎晩宴が繰り広げられる。常連達の中で一番の新参者「二階堂ワタル」(通称チェリー)。会社では毎日上司に怒られ、目標も夢もなく、平凡な毎日を送る。「来夢来人」はそんなワタルが見つけた唯一の自分の居場所。佐知子ママや常連達はそんな彼を家族の様に温かく迎え入れてくれた。ママと常連達の哀愁の物語。
アニメーション交えて。こんなノリのママの店の常連にはならないだろうが、ジャズ歌手シーンは良かった。早く安心して酒場に行ける生活に戻りたいね。
ゆうばり国際公式オンデマンド ゆうばり国際ファンタスティック映画祭Hulu 2021年9月