「奇想天外映画祭2021」
「アルチバルト・デラクルスの犯罪的人生」1955年 墨 監督:ルイス・ブニュエル La Vida criminal de Archibaldo de la Cruz殺したい女を殺そうとするたびに失敗し、ところがその直後、その女は別の理由で死んでしまう。そして同様のことがまた起きる。偶然の積み重ねで、殺人犯になることのできない男アルチバルトはフラストレーション解消のためにマネキンに火をつけるのだが…。ブニュエルのメキシコ時代の作品の中でも”最も愛すべき作品”として語りつがれてきた快作。
やっぱりブニュエルは不条理でこそだよな。
母からもらったオルゴール人形の逸話から、女の生死を支配する能力に憧れ連続殺人のサイコパスへの才能が開花するはずが、殺したい女が次々と別の理由で死んでしまうため殺人することができないアルチバルト(エルネスト・アロンソ)。モンティパイソンばりの不条理ギャグが大好物だ。
綿密な殺人計画とオルゴール音に不穏なオルガン曲。
殺される側の女たちも大抵は酷い浮気者だったり。
殺人願望はもとより脚フェチ。脚への執着が最高である。このアルチバルト・デラクルスの性癖はそのまんまブニュエルのもの。
幕開きで窓辺の家庭教師の女が暴動の流れ弾に当たって死亡。その場にとスカートが少しまくれガーターストッキングが露わな状態で倒れる女教師とそれを見つめる少年。いきなりウハウハな展開。
剃刀で殺害を企てる看護婦は逃亡中に転落死。
やはり圧巻はマネキンのくだり。
モデル兼ガイドのラヴィニア(ミロスラバ・ステルン)に恋したアルチバルト。ラヴィニアをモデルとしたマネキンを入手し、ラヴィニア本人を邸宅に招き入れる事に成功する。ラヴィニアも自分と衣装を取り換える。マネキンの下着を確認するとき一瞬マネキンの太ももが本物になったり。ラヴィニアはちゃっかりアメリカ人観光客を邸宅に呼びガイドの仕事。「あなたには妹が居るわ」とまんまと逃げられてしまう。
殺人欲求が満たされないアルチバルトはマネキンを焼却炉で焼く。死体のようにマネキンを引きづる際にゴットンとマネキンの片足が外れる。
焼却炉で溶けていくマネキンの顔。
結婚にこじつけた娘は上司と不倫。事実を知ったアルチバルトは華やかな結婚式の初夜に殺害する計画に酔いしれるが、これも嫉妬した不倫相手の凶弾に先を越される。
アルチバルトは全て自分が殺したと逮捕を要求するも、妄想だけでは犯罪にならない。どうすれば良いのかの問いに検事が「電気カミソリを使え。」って・・・w
因縁のオルゴールを池に捨て、アルチバルトの犯罪的人生にどのような影響が出るのか?バッタのシーンにちょっとドキドキしたが、まさかのハッピーエンドも人を食ってて良い。
新宿K’sシネマ 2021年9月