「すべて、至るところにある」2023年 Cinema Drifters 監督:リム・カーワイ
旅行でバルカン半島を訪れたマカオ出身のエヴァは、そこで映画監督のジェイと出会う。その後、パンデミックと戦争が世界を襲い、ジェイはエヴァにメッセージを残して姿を消してしまう。彼を捜すためバルカン半島を再訪したエヴァは、かつて自分が出演したジェイの映画が「いつか、どこかに」というタイトルで完成していたことを知る。ジェイの行方を追ってセルビア、マケドニア、ボスニアを巡る中で、エヴァは彼の過去と秘密を知る。
大阪を拠点に国境と言葉を越えて映画を撮り続けるマレーシア出身のリム・カーワイ監督が、「どこでもない、ここしかない」「いつか、どこかで」に続いて制作したバルカン半島3部作の完結編。
タル・ベーラを観に行ったら壁に宣伝が貼ってあって面白そうだったから衝動的に鑑賞。なにしろ映画のタイトルが良い。と思ったらやはり初めにタイトルありきで撮られたようだ。
観始めた時はどうも言い表しが難しいんだけど、映画の雰囲気、画面のルック、音響がいつも見てるものと異質なものがあり、これは最後まで見られるかなと心配になったが、まぁすぐに慣れたかな。
監督はほとんど台本無しで即興的に撮っていくフリースタイルみたいな手法を使ってるらしい。そのため少しドキュメンタリーっぽかったりする。映画製作の事はぜんぜん解らないけど、展開のセオリーとかあるのかしら。音楽でいえばコード進行みたいな。
パンデミックやバルカンの戦禍を背景にしているようだが、特徴的にとらえられるバルカンの建造物がとても無機質で、あまり人の気配が感じないので、「わぁ、素敵、行ってみたい」という風にはならない。むしろジェイのお気に入りの喫茶店の人々へのインタビューの方に惹かれるし、人々と無機質な建造物の取り合わせ、バランスが気持ちよくない。
ジェイを探すエヴァの旅はすれ違いがあって会えそうで会えない。ひょっとしたらパラレルワールドに落ちいていて絶対会えないのかもしれない。
途中、飲食店によるエヴァの背後に確かにジェイらしき人物が映っているんだけど、次のカットではその席は無人でガラス窓のエッヂング文字が反転されてジェイと読める。これはロケハンでこの場所を見つけて取り入れたそうだが、即興で撮っているとそんな神的な偶然の遭遇ってのがあるんですかね。このエピソードだけでも本作の価値があるんでないの。
過去の時間軸で映画を撮るジェイと出演者となるエヴァ。エヴァがプールで撮影を続けたくないとゴネるところ好き。
最後に出てきた建造物が未来からのパスポートのブルトンっぽくて、建造物の中ではここが一番良かった。いつのまにやらパラレルワールド要素が強まっているのも面白い。
劇中屋外シアターで上映されている映画はリム・カーワイ監督の過去作。本作はバルカン3部作といわれるものの最終作とのこと。「どこでもない、ここしかない」「いつか、どこかで」も機会があったら見ても良いけど、あくまで機会があったら、だ。自発的に探しには行かないだろう。それよりリム・カーワイ監督にはミニシアターを回るドキュメント作があるとの事で、そっちの方はかなり興味があるな。
シアターイメージフォーラム
2024年2月