「戦前戦後ーー東京活写」
「人間狩り」1962年 日活 監督:松尾昭典 原作・脚本:星川清司
暗い過去を持つ刑事が時効目前の殺人事件を追うサスペンスもの。日暮里、町屋など古い町並みの生々しいロケ撮影が、より重厚な人間ドラマに仕立て上げた。
小田切は総監賞を五回も貰った敏腕刑事だが、非情ということで署内での評判はよくない。警察学校で同期だった桂木だけが唯一の友である。ある日、一度も尻尾をつかまれたことのない顔役田口が、十五年前の強盗事件の口を割った。「だが、もう時効になってる。それにコロシをやった房井は今どこにいるか知らねえよ」と、田口はうそぶいた。小田切が古い記録を調べると、それは田口の思いちがいで、その事件は時効までにまだ三十七時間残っていた。房井を捕えれば今度こそ田口をブチ込むことができる。
この度の神保町シアター特集「東京活写」と銘打っても「燃えつきた地図」も「十九歳の地図」も選ばれてない。東京といっても辺境の北区は相手にされないと落胆してた。 取り敢えず町屋が舞台という本作を渡辺美佐子、中原早苗目当てで見に来たら、時効間際の強盗犯が一時住んでいたのが赤羽。1962年はまだ物心もついてないが確実に記憶にある60年代赤羽駅の様子があった。高架の京浜東北。そして現在もなお健在のお菓子の種屋がしっかりと映し出されていて爆上がりしてしまった。
子供の頃に強盗犯に母親を殺された刑事・長門裕之は正義感暴走で容疑者に対する憎しみが絶えない。恋人は元殺人犯の情婦であった渡辺美佐子だが、渡辺美佐子は自分の過去が本心から赦された事が無い事に苦しんでおり別れ話を持ち出している。
そんな中、憎々しい悪党小沢栄太郎の話から彼の相棒で時効寸前の強盗殺人犯を追うことになる。新米のエリートでサラリーマン刑事とコンビだ。
時間との戦いで熱海から赤羽、町屋と犯人の居場所を捜索、聞き込みをするうちに犯人は再婚し連れ子とともに真面目に暮らし頗る近所の評判が良い事が知れる。
長門裕之の葛藤と恋の行方、追手が迫る事を知った犯人・大坂四郎が家族に過去を告白謝罪するあたりからの人情話展開と息子・娘の反応とか、なかなか見所多く見せるけれど、刑事三人が張り込み中の喫茶店で犯人逮捕の作戦会議というか正義に関する議論を大声で喚きあうというトンデモ映画でもある。しかも恋人連れだよ。
赤羽だけでなく当時の日暮里、町屋の姿が映し出される資料的側面も本作のもう一つの魅力。それは月日が流れてこそ生まれる価値。
神保町シアター
2024年4月