「スペイン・メキシコ時代のブニュエル」
「エル」1953年 監督:ルイス・ブニュエル
El
敬虔なカトリック信者の童貞おじさんフランシスコは、教会の洗足式で視た美脚の持ち主グロリアに強引に求愛し結婚するが、そこからグロリアの地獄が始まる!脚、屋上、覗き、銃や縄・・・。ラカンが講義にも使用したという偏執ブルジョア男が破滅へと向かう不条理劇。ブニュエルが自己を投影したというフランシスコの行きつく果てに背筋も凍る傑作!
ルイス・ブニュエル真骨頂の変態フェチ映画。
冒頭、厳かに少年の足を洗う司祭から脚線美の婦人の足にカメラが移動してワクワク。
敬虔なカトリックでブルジョアのフランシスコはこのグロリアにラウルという婚約者があるにも関わらず、猛烈に求婚。グロリアまんまと玉の輿と思いきや、このフランシスコが異常なほどの嫉妬に悩まされる。たまたま再会した元彼ラウルに告白する夫婦生活。ここからは回想シーンなんですが、フランシスコが嫉妬深いだけでなく、著しいモラハラ性格を見せるわけで、これはもう大好物なジャンルですから。
新婚旅行でも、グロリアが旅先で会った旧友に対しても思い込みの被害妄想で鍵穴から覗いてるに違いないと鍵穴に針金を突っ込む暴挙。先端恐怖症の気のある当方としてはゾクゾク。
寺院の鐘付き台からグロリアを突き落とそうとする所など重度の高所恐怖症の当方としてはさらにゾクゾク。
この手の男は大抵外づらが良いし、真面目で固い男で通っているので、母親や教会の司祭に相談しても、彼女自身に問題があると相手にしてくれない。
癇癪を起したかと思うと脚線を見た途端急に優しくなったりするフランシスコ。この二面性から何故か別れられなくなっていくグロリア。「私が居ないとこの人はダメ」ホントはそんな事は無いんだけどね。
支配したがる者と支配されたがる者の関係というのも大好物なジャンル。しかし、グロリアは就寝中フランシスコに縄をかけられそうになり、流石に逃げだす。緊縛で喜ぶ類の人ではなかったのがフランシスコの不幸か。
鑑賞途中、本当は全てグロリアの方の妄想なのかと一瞬思ってしますとさらにゾクゾクしてしまう。
ここからフランシスコの狂気が増幅され、壊れて行く。皆が自分の事を笑っているという思いに取りつかれる。幻覚シーンでの司祭や参列者たちがバカにする態度がギャグぽくて良い。
とうとう司祭に掴みかかったフランシスコは取り押さえられ、修道院に送られる。
数年後、ラウル再婚したグロリアは一人息子を設けていて修道院を訪れるが、フランシスコの様子を聞くだけに留め、会わずに帰って行った。賢明。
様子を伺っていたフランシスコは司祭から聞かされると、自分は狂っていなかった事が証明されたとジグザグ歩き出すその後ろ姿。
ゾクゾク、モヤモヤ、ニタニタがゾゾーッと収れんされるラスト。
グロリア役のデリア・ゲルセスが終始困惑顔美人であるところも良かった。
シネマヴェーラ渋谷
2023年8月