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Channel: JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)
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「杏っ子」

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「華麗なるダメ男たち 〜色男、金と力はなかりけり〜」

「杏っ子」1958年 東宝 監督:成瀬巳喜男

高名な作家の娘・杏子(香川京子)は漆山(木村功)と結婚する。しかし、漆山の仕事は長続きせず、ついには専業作家を目指すと言いだし、杏子の嫁入り道具を売って食いつなぐ始末。夫婦仲は冷え切り、義父への劣等感が反感に変わった漆山の態度はますます悪化して・・・。

神保町シアターの今回の特集。ダメ男好きには堪りませんがな。
とは言うものの、この室生犀星の私小説が原作という「杏っ子」に於ける漆山(木村功)のダメさ加減は見ていて居たたまれない物がある。
成瀬巳喜男の辛辣なまでのダメ描写。
立派な義父への劣等感と嫉妬によって父親を尊敬する娘にまで当り散らす。才能が無い事に気づかないで(気づこうとしない)の執筆活動は生真面目で根気に溢れている。
そんな婿を義父は、直接叱りつける事もなく、娘を心配しながらもあくまで冷静に第三者として観察している。これも堪らんでしょうな。
惨めさがいや増すのは義父の所に来ていた編集者(中村伸郎)が遠目に覗いていて、作品は決して褒めないながら、「書く時の姿勢がよろしい」と褒めらたりしている。相変わらず中村伸郎が素晴らしい。
このどうしようもない甘ったれ婿殿に対して同情したくなるのは、これが室生犀星の私小説の題材として発表されていると言う事。私小説家の家族になんて決してなるものじゃないが、脚色は合っても、一応は事実に即しているわけだろう。そりゃないよねお義父さん。

漆山が杏子に求婚する動機にしたって、杏子と見合いにやってきた軍隊時代の上官(土屋嘉男)への嫉妬から中傷して、結婚しようという醜悪さまで描かれちゃうわけです。

杏子(香川杏京子)の方はといえば、これは昔の女性だからか、いや、そうであっても我慢強いのなんの。亭主の才能など端っから信用していないのに「亭主兵営には給料がない。一生兵役に縛りつけられる」と愚痴りながらも三行半をたたき付ける事はない。凄いです。
しっかり者で、ダメ女じゃないですからね。(三行半をたたき付けられないところがダメ女とも言えますが)
今の女じゃ絶対無理だね。ダメ男が所帯を維持していくには生きにくい世の中。昔はまだまだ付け入られる女が多かったんでしょうか。
香川京子がだんだん生活に困窮してきて、服や履物がみすぼらしくなっていく様は絶品。

さて、物語は、今回も決して何らかの決着を見る事もなく、杏子が一旦、亭主の元に帰っていくところで終わる。その後の二人の人生は観客側の想像に委ねられる。このパターンて成瀬の特徴らしい。
物語の途中、詩人の菅さん(加東大作)がやってきて、進行にガツンと衝撃を与えてくれるのかと思いきや、庭を箒で掃くだけでした。

親戚の娘で杏子と対照的な現代娘のりさ子役は三井美奈という方。映画出演は少ないようです。
ちっと気になって調べた。

神保町シアター

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